YAU公募 vol. 02 「Living Room by Tabula Press」

◼︎YAU公募プログラムとは…
これまでYAUはYAU STUDIOとして、アーティストの制作場所や稽古場、ワーキングスペースを開き、トークイベント「YAU SALON」を継続して実施するなど、アートと社会やまちをつなぐ活動に取り組んできました。
2023年11月に国際ビル7Fに移転し、今年3月にまちとアートのさらなる接点となるオルタナティブスペースとして、同ビル日比谷通り沿いの一角にYAU CENTERを新しくオープンさせました。
「YAU公募」では、YAU CENTERを場として用い、これまでにない実験的かつ創造的なアーティストの活動がまちと出会う起点として、公募から採択した3組のアーティストによる企画を実施します。

本企画はYAU(有楽町アートアーバニズム)の公募採択企画で、出版プロジェクト「Tabula Press」が独自に発行するジャーナルの三週間限定オンサイト編集室です。今回のテーマは「Living Room(生きることの範疇)」であり、不安定だがのっぴきならない状況のうえで、くつろぎや安心、親密さを獲得する方法を考えます。プロジェクト設立者である三人各々の視点からテーマの翻訳を試み、ゲストを招いた企画、その記録、それらを製本する作業を、YAU CENTERに持ち込まれたテーブルの上で行います。三週間を通して、このテーブルにおける対話の記録が「Tabula Fragilis」Vol.01として完成します。
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Week-1 “家の不在について/On Absence of Home”
    家の不在において家を考える、「静物画」のワークショップ
 ※こんな人におすすめ
 最近、家のことを顧みれていないと感じる人・家で何もすることがない人
    08/13-18 WORKSHOP「家と机のある静物」 
    08/18 17:00-18:00 GALLERY TALK「家の不在について」(ゲスト: 築山礁太)
 

Week-2 “わが家以外 / Other than being at Home”
    家の外から家の中のことを考える、家の中から家の外を考える
 ※こんな人におすすめ
 「他者の悲しみを悲しみきれない悲しみ」を感じる人・悲しみをすこし抱えている人・不安定な社会に対する生き方や態度について考えてみたい人・人と近づくのが苦手な人・人に触れるのが苦手な人・腰を据えた「コミュニケーション」以外での人との関わりについて考えたい人
    08/13-30 EXHIBITION – MAIL INTERVIEW  「解離」(ゲスト: 三野新) 
    08/21 19:00-, 08/24 13:00- WORKSHOP 「暴露」(ゲスト: 今宿未悠)
   

Week -3 “家の緩やかな片付け / Lazy with Home-Making”
    つくられた家の中における「片付け」のアーカイブ
 ※こんな人におすすめ
 生活を見直したいと思っている人、仕事が忙しくて家の片付けが後回しになってしまっている人、QOLをあげたいと思っている人、部屋の内装に悩んでいる人
    08/25-30 EXHIBITION – ARCHIVE 「片付けの実践「搬入から搬出へ」」
    08/16 15:00-17:00 TALK SESSION AND TOURS「ものを動かし始めるとき」(ゲスト: 山川陸)
    08/30 19:00 -20:30 TALK SESSION  「片付け見直し調査」

YAU公募 vol. 02 「Living Room by Tabula Press」
企画:Tabula Press
開場時間:12:00-19:00
休廊日 :木曜日
会場:YAU CENTER
〒100-0005 東京都千代田区丸の内3丁目1−1 国際ビル 1F
入場料:無料
主催:有楽町アートアーバニズム YAU、Tabula Press
出展:Tabula Press(北垣直輝、曽根巽、成定由香沙)
マネージャー・コーディネーター:築山礁太、武田花、山本さくら、村松里実(以上、YAU)
協力・印刷:Hand Saw Press
お問い合わせ:[contact@tabula.press](mailto:contact@tabula.press)、Tabula Press (成定由香沙)

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他者の悲しみを悲しみきれない悲しみについて
Tabula Press「暴露」によせて

文責:今宿未悠
言葉:成定由香沙、武田花、北垣直輝、曽根巽

朝目覚めて、太陽の光よりも先にスマホのブルーライトを浴びるのが私の日課である。小さな画面の発する光に目を細めながら、Gmail、LINE、Instagram、幾つもの通知に目を通していく。Xを開いてスクロールする。指がふと止まる。爆撃、傷を負った男性、餓死した赤ん坊の落ち窪んだ目。知人たちの日常的な投稿の隙間に、凄惨な写真や動画が、幾つもある。私が寝ている間にも戦争は止まらない。

その現実に、悲しむことを、何度も繰り返す。

なぜ悲しいのか。一つには、悲しむべきことが起きていることそのものに対する悲しさがある。ただもう一つには、その戦争で悲しんでいる他者の悲しみを、悲しみきれないという事実に対する悲しさがある。遠く離れた場所で生きている(あるいは、亡くなってしまった)他者の悲しみを、私は断片的にしか知り得ず、到底悲しみきれない。ボイコットやデモなど、なんらかの実践を行ってもなお、「悲しみきれた」という実感が私に訪れることはない。何も答えを出せずにいる。

……目覚めたベッドの上、SNSをスクロールし続ける作業を終えて身を起こす。床に足をつければ空腹に気づいて、簡単に自分の日常で頭がいっぱいになる。キッチンに立ってコーヒーを淹れ、菓子パンの袋を持ってテーブルにつく。目の前に座るあなたに、おはよう、と声をかける。あなたは先ほどかかってきた電話の内容を私に伝える。電話の相手は弁護士で、あなたが現在取り組んでいる離婚調停中の裁判はまた長引きそうだ、との連絡があったらしい。

私は、

目の前にいるあなたの悲しみでさえ、悲しみ切ることはできない。

もはや物理的な距離は関係ないのだと思う。それぞれ個別の身体を有する私(たち)は、別の身体を有するあなた(他者)の悲しみを、悲しみ切ることはできない。

このことに、どう向き合ったらいいだろうか。

レヴィナスという哲学者がいる。ユダヤ人である彼は、ホロコーストによって家族の多くを失った。戦後に著した書『全体性と無限』においては、彼の経験に基づき、「コミュニケーション」と「コンタクト」という二つの概念が示される。

ここで「コミュニケーション」とは、言語を介した他者との対話のことである。コミュニケーションにおいては、他者の存在(特に、悲しみや苦しみ)に対する応答と責任が強調される。

しかしながら、私たちは応答すべき他者と直接コミュニケーションを取れない時がある。物理的に連絡する手立てがない時や、自らの生活や感情でいっぱいで精神的に応答する気力がない時もある。

そういった時、罪悪感に苛まれる。応答できない自分自身のことを責めてしまうこともあるかもしれない。

ただ、ここでレヴィナスはもう一つの他者との出会いの可能性を提示している。それが「コンタクト」である。「コンタクト」とは、他者との直接的な出会いによって生じる倫理的な関与のこととされる。

本ワークショップにおいては、目の前にいる他者(=あなた)の悲しみに対して、「コンタクト」するとは如何なることか、またその可能性について考える。ヒントとして、物理的な出会いの場としての身体、あるいは出会いの行為としての物理的な「接触」を扱う。身体や接触によって、私はあなたの悲しみに、いかに向き合うことができるだろうか。

 

参考文献

エマニュエル・レヴィナス,藤岡 俊博 訳『全体性と無限』, 講談社, 2020
村上靖彦,『傷の哲学、レヴィナス』,河出書房新社, 2023
木村敏,『あいだ』,ちくま学芸文庫, 2005
ダニエル・ソカッチ, 鬼澤 忍 訳, 『イスラエル 人類史上最もやっかいな問題』, NHK出版, 2023
ピーター・A・ラヴィーン, アン・フレデリック, 花丘 ちぐさ 訳,『ソマティック・エクスペリエンシング入門 トラウマを癒す内なる力を呼び覚ます』,春秋社, 2024
ディミトリス・クシガラタス, 田中恵理香 訳,『RITUAL 人類を幸福に導く最古の科学』,晶文社, 2024
伊藤亜紗,『手の倫理』,講談社, 2020

参考実践

Dennis Oppenheim「Two Stage Transfer Drawing: Advancing to a Future State; Pointing to a Past State,1971
ソフィ・カル,「限局性激痛」,1999
山口みいな,「ドローイングワークショップ」, 2023

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